仕事を通じて感じること。どの企業様も人材育成に苦心されていることです。採用コストが馬鹿にならないことは周知のこととして、では、採用した人をいかに戦力にしていくか?消費の多様化と同様に、個人の価値観が多様化している現代においては、容易ではないようです。いくつか思うところを書いてみます。
学ぶ気持ち
企業研修の依頼を受けて、希望されたテーマで実施する機会があります。依頼される方の思想や希望は素晴らしいものですが、残念なことに肝心な受け手の学ぶ準備ができていないことが時々あります。
そのまま進めると、どんなに熱く語っても糠に釘。私も依頼者も残念な思いをすることになります。なので、いくつかの質問を通して、始める前にそのことを確かめることにしています。目的を理解し、学ぶ気持ちができていたらそのまま本題に入りますが、できていないときは、学ぶ気持ちに持っていくために30分費やすことにしています。30分でどれだけ気持ちが変化するか?定量化は難しいのですが、やらないよりは格段に効果的だと信じています。
ところで、この「学ぶ気持ち」…の個人差はなんだろう?何もしなくても目をキラキラさせてとことん学ぼうとする研修生もいれば、丁寧かつ熱心に伝える努力をしても、半開きの口元や死んだ目をした研修生がいます。もちろん価値観の部分もあるでしょう。育った環境も、経験してきたこともそれぞれ異なるのですから当たり前です。であれば、採用時まで遡ってみる必要もあるかと…。で、以前読んだ「採用基準」が思い出されました。
思考力
「採用基準」(伊賀泰代著)の中に、
「思考力」=「思考スキル」+「思考意欲」+「思考体力」
という数式?があります。
「思考スキル」は、就職後すぐにでも訓練で身に付けることができるもので、採用時には重視しなくても良い。しかし、「思考意欲」と「思考体力」は一朝一夕には身につかないと記されています。確かに、若手の社員さんの成長度合いの差をみると、そこには、課題解決に挑む「思考意欲」と「思考体力」が要因であるような気がします。なるほどなぁと思わされた次第です。
研修などでは、いろんな知見やスキルに当たる食材を提供することになるのですが、やはり「思考意欲」、つまり食欲があれば、すぐに消化吸収してもらえる訳です。一朝一夕にはいかないものですから、30分で「学ぶ気持ち」を持たせるのもかなり無理があるのかもしれません。
私は、学歴で従業員さんをみることを好みません。実際、成長意欲満々の高卒は、5年もあれば、漫然と目の前の仕事をこなしてきた大卒を超えます。高卒の方が4年若いから、会社としては4年も貢献期間が長くお得と言えます。
では、何故、大卒を高給を払ってまで採用しようとするのか?そこには、やはり「思考意欲」と「思考体力」があるのだと思います。大学受験という経験が、学習する習慣を身につけて「思考意欲」と「思考体力」を育てているのだと。同じ大卒でも、東大、京大、慶応、早稲田など難関大学と競争率が低い地方大学が、就活で格差がつけられるのも、単純に学閥やブランドだけではなく、より多くの「思考意欲」と「思考体力」を持っているに違いないという期待値にあるのではないかと思うのです。
学習する組織
人材育成に頭を悩ます経営者にとって、コンサルは心強い味方でしょう。しかし、そのために永久にコンサル契約を継続してお金を払い続けるのも如何なものかと最近考えます。理想は、十分時間をかけて「思考意欲」と「思考体力」を植え付けてもらって、それができたらあとは、定期的に成長ステージの確認とアドバイスを受けることではないかと思います。
中小企業でよくあることは、お金をかけて個人を育てた結果、諸事情で退職して行くことです。特に新事業は経験者がいなくて、外部から専任として雇用することがよくあり、準備期間からお金をかけてノウハウを吸収してもらったのに辞められたら、かけたコストが丸々無駄になり、また0からのスタートとなるのです。
「思考意欲」も「思考体力」も個人に頼ったら、0からスタートを繰り返すことになるかもしれません。つまり「思考意欲」も「思考体力」も組織に植え付けるべきではないかと思う訳です。課題解決しようとする「意欲」を持った組織、そのために挑戦し続ける「体力」を持った組織ができれば、コンサルはスポットで依頼するか、外部研修に参加させる程度で充分です。
つまりは「学習する組織」を作ることでしょうね。戦略、組織体制、システムは明日にでも変えることができます。しかし、人材、能力、社風、価値観を育てるには時間を要します。時間を要することは容易ではありません。だからこそ、それができたら競争優位性に繋がります。「学習する組織」ができたら、それはそのまま会社の大きな財産です。
私たちコンサルも、そこに重点を置いて会社をサポートしなければいけないと思う次第です。