企業の社会的責任
2018年2月23日の日経新聞の記事(過熱するコバルト争奪戦、アップルの難敵はEV)の中で、コバルトの主要産地であるコンゴ共和国の鉱山での児童労働問題に触れています。企業の社会的責任が強く問われる現代では、「調達先で何か起きているか知りませんよ」では通らないのです。アップルはコバルトの調達先を公表しており、直接調達はサプライチェーンの透明性を高める意味でも重要といえます。そして、同じようなことが、日本の食品業界でも喫緊の課題となっているのです。
霜降り肉
「霜降り肉」という美味しいお肉を生み出したのは、日本の素晴らし生産技術です。しかし、この日本独特の「霜降り肉」をつくるために、脂肪細胞の増殖を抑える働きのあるビタミンAの給与制限が全国的に広く普及しているのです。このビタミンA欠乏が慢性的に続くと、光の情報を視神経に伝えるロドプシンという物質が機能しなくなり、重度になると、瞳孔が開いていき、失明に至ってしまうことがあります。牛を失明させてしまう飼育方法が、アニマルウェルフェア(動物福祉)に反しており、動物虐待に当たるというわけなのです。
アニマルウェルフェア(動物福祉)
アニマルウェルフェア(animal welfare)は、動物福祉、あるいは家畜福祉と訳されています。人間が動物に対して与える痛みやストレスといった苦痛を最小限に抑えるなどの活動により動物の生き物としての尊厳に配慮することを実現する考えです。 日本では聞きなれませんが、EUなどではこの言葉は消費者に広く浸透し、国レベルでさまざまな取組がなされています。
アニマルウェルフェアへの対応については、日本は遅れていると言わざるを得ません。狭い国土で生産するには、狭い鶏舎、豚舎、牛舎で育てる事になり、それ自体が動物虐待に当たるからです。日本の文化として、食べ物に感謝する心は存在します。食事前に「いただきます」というのは、その表れです。決して動物虐待をよしとするわけではなく、むしろ全てに愛しむ精神を持っている国民なのです。しかし、世界のアニマルウェルフェアの観点からは、認められない肥育方法を取っており、消費者もその問題を認識していないのが現状なのです。
東京オリンピック・パラリンピック
東京オリンピックまであと2年。世界的なイベントであるオリンピック・パラリンピックでは、社会的責任が問われるようになっており、環境や社会、人権や動物に配慮されたイベントであることが求められるようになっています。過去のロンドンオリンピック、リオオリンピックともに拘束飼育を禁じています。さらに、2024年パリ、2028年ロサンゼルスでもアニマルウェルフェアのレベルは維持されると思われます。2020年東京オリンピックではどう対処するのでしょうか?
GAP:Good Agricultural Practice(農業生産工程管理)
「東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会」(以下、組織委員会)は選手村などで提供される食材について、食の安全や環境保全などを要件にした調達基準(持続可能性に配慮した調達コード)を策定しました。調達する物品やサービスに共通して適用する基準や運用方法について定めています。たとえば、農産物、畜産物などには個別の調達基準を設けています。それを満たすためにGAPの認証取得を求める方針を固めているのです。GAPとはGood Agricultural Practice(農業生産工程管理)の略です。そして、国際的にも広く活用されているのが、ヨーロッパ発祥のグローバルGAPです。日本の場合、代表格は一般財団法人日本GAP協会が策定するJGAPです。JGAPは日本の農業の実情に合わせて策定されているため、グローバルGAPに比べて取得は容易となっています。が、しかし、現時点では、選手村などで提供される食事の安全性を担保する「お墨付き」として求められる、この国際規格の認証取得が日本の農家では進んでいないのです。
GAPの普及が進まない背景には、認証の取得や維持などにかかるコストの高さもあげられます。グローバルGAPでは取得に数十万円、維持に年間20万~40万円かかります。そもそも販売先が国内だけなら未取得でも取引に支障はなく、メリットを国内の農家が感じにくいのが現実のようです。そんな中、認証取得を推進してレベルの低いGAPで収めようとすれば、ロンドン大会、リオ大会と比較されることになり、国のメンツにもかかわってくるのです。
オリンピックの開催によって、喫緊の課題となったこのGAPの認証取得。実情にあったレベルでイベントをやり過ごすか?、国のメンツを取るか?その間には大きなGAPがありそうです。