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頼まれごとは試されごと

私は、会社を辞めるとき、「会社に育てられたなぁ…」と心から思いました。営業、営業企画、財務、経営企画と、社員2,000人を超える会社では、普通の人より多方面の経験が出来たと感じます。このことは、今のコンサル活動に大いに役立っています。

他の人から見ても、いいキャリア形成が出来ているように感じられるようです。特に、営業畑から管理系の財務部への移動はあまり例が無いようで、どうしたらそのようなキャリア形成ができるのか?尋ねられて、ふと考えた次第です。

プラウドハプンスタンス理論

プラウドハプンスタンス理論とは、フォード大学のジョン・D.・クランボルツ教授が提唱したキャリア論で、「キャリアは偶然の出来事、予期せぬ出来事に対し、最善を尽くし対応することを積み重ねることで形成される」というものです。

振り返ると、私のキャリア形成も偶然への対応の積み重ねだったと思わされます。

タイミングの偶然

私は入社と同時に営業現場を経験し、その後、営業事務に異動しました。企業が成長段階で管理系に力を入れ始める時期にあたり、営業事務に若手を登用し始めたのがきっかけでした。「タイミングの偶然」と言えるかもしれません。

誤解による偶然

手前味噌ですが、営業事務員としては、いい仕事をしていたと思います。本社の業務部からも目をかけていただいていることを肌で感じていました。このまま、事務業務路線で進んでいくものと思っていたところ、営業企画への辞令。今更営業?私にとって、晴天の霹靂でした。あまり例のない異動だったので、周りも驚いていたことを思い出します。

この異動は、ウインドウズ95が発売されたタイミングで、パソコンを個人で所有することが、社内ではまだ珍しい時代でした。所有しているだけで、パソコンができると思われたのでしょう、パソコンができる人が欲しい営業企画とのマッチングが成立したのです。

実は、エクセルもワードも出来ないのに…。笑い話ですが、この頃はマウスが操作できるだけでプロに見えたのです。このことは「誤解による偶然」と言うしかありません。

必然的偶然

当時は売上至上主義で、営業企画としては、とにかく売上をあげるには?に注力した戦略。しかし、財務部からは、「儲からない、営業は何をしているんだ!」との非難。じゃぁ、具体的に何処がどう儲かっていないんだ?と問うと、財務も営業が分かっていないので明確でない返答しか出来ない状態でした。

この頃、経営の勉強を始めていた私から見ての気づきは、財務部は制度会計の範囲でしか仕事が出来ていなくて、管理会計に行き届いていないということ。何処でどう儲かっているかを知ることから始めないと儲かる戦略は打てない。で、出した答えが、私が管理会計に取り組むために財務へ行くという異動願いとなりました。

実は、財務側でも営業が分かる人材を欲しがっていたようで、相思相愛の異動でもあったようです。営業も財務も、儲かる方法を模索していてこうなることは必然だったのでしょう。ただ、私がその役目に立てたのは偶然であり「必然的偶然」だったと解しています。

財務から経営企画へは、以上の3つの偶然のミックスです。企業合併という時流とその対象となる企業であったこと、そして経営企画に興味がある奴という誤解が組み合わさっての異動でした。

私のキャリアも偶然への対応の積み重ねであったと理解できます。その都度与えられた課題に全力で対応したことが今に繋がっています。

頼まれごとは試されごと

講演家 中村文昭氏の名言に「仕事の4つの鉄板ルール」があります。

1.返事は0.2秒

2.頼まれ事は試され事
(人から何か頼まれたら、
試されていると思って相手の予測を上回わることをする)

3.できない理由は言わない

4.そのうちと言わず今できることをやる

この2番目の「頼まれごとは試されごと」が大切なのだと思います。

昔はパワハラという言葉もなかったので、上司の無茶振りに振り回されたものです。そのときは、「無茶な!」と思ったことも、全力で取り組んで、気づいたら「できちゃった」ということが何度もありました。

できない理由を挙げて放置していたら、スキルの向上にならなかったでしょう。「よくぞ頼んでくれました」くらいの意識で期待に応えることも、キャリア形成の必須条件でしょう。

性、相近し、習、相遠し

性、相近し、習、相遠し(せい、あいちかし、ならい、あいとおし)

「人の性質は生まれた時にはあまり差はないが、習慣や教育などの違いによって、次第に差が大きくなる。」という意味の論語です。

入社当時は、皆、その実力に大差なかったと思います。その後に幾らかの差が生まれるとしたら、確かに偶然の要素もあると思います。ただ、その偶然に全力で対応すること。そしてそれを繰り返すこと、習慣化することが、いいキャリア形成になるのではないかと感じています。

そのことを意識して、これからも「頼まれごとは試されごと」と思いながら、クライアントの要望に全力で応えたいと思います。