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リニア中央新幹線工事の談合に見る「囚人のジレンマ」

ゲームを行う場合、相手の手の打ち方を読んで、できるだけ自分の得点を高くし、失点を少なくするにはどうするか、という方策を求める数学理論を「ゲーム理論」という。代表的なものに「囚人のジレンマ」 経済学から社会学、経営学、そして進化論へと、幅広い分野に影響を及ぼしている。…コトバンクより

で、この「囚人のジレンマ」。ビジネスの世界でもよく見られる現象なんです。

囚人のジレンマとは

囚人のジレンマとは、お互い協力する方が協力しないよりもよい結果になることが分かっていても、協力しない者が利益を得る状況では互いに協力しなくなる、という状態を言います。

たとえば、

囚人B
黙秘 自白
囚人A 黙秘 象限A
(2年, 2年)
象限B
(10年, 0年)
自白 象限C
(0年, 10年)
象限D
(5年, 5年)

※(◉ , ▲)の◉はAの刑期、▲はBの刑期。

囚人2人にとって、互いに自白(象限D)して5年の刑を受けるよりは互いに黙秘(象限A)して2年の刑を受ける方が得です。しかし、それぞれの囚人が自分の利益のみを追求している限り、両者とも自白という結末を迎えるのです。これがジレンマと言われる所以です。

詳しく見て見ましょう。
囚人Aは、

囚人Bの選択が「黙秘」の場合…「黙秘」2年、「自白」0年から選択
囚人Bの選択が「自白」の場合…「黙秘」10年、「自白」5年から選択

つまり、囚人Aは、囚人Bがどちらを選択しても、「自白」を選んだ方が得をします。

囚人Aの選択肢が「自白」しかなければ、囚人Bは、

「黙秘」10年、「自白」5年からの選択となるので、自ずと「自白」を選択することになります。お互い黙っていれば2年で済むのに、お互いの欲が損をする結果になるんですね。

ビジネスの例であげると、価格競争でよく見られます。

長く価格競争を続けていると、これ以上下げられない価格に行き着きます。下の図をご覧ください。お互いに「せーの」で価格にをあげることができれば、お互いに利益を拡大できます。しかし、一方が同調しないと顧客を奪われることになるのです。よって、お互いに牽制しあって価格が上げられず、低価格に張り付くのです。この象限Dの状態をナッシュ均衡と言います。

乙商店
値上 低価格
甲商店 値上 象限A
(15円×10人,15円×10人)
(150円,150円)
象限B
(15円×0人, 10円×20人)
(0円,200円)
低価格 象限C
(10円×20人,15円×0人)
(200円,0円)
象限D
(10円×10人, 10円×10人)
(100円,100円)

リニア中央新幹線工事の談合

ピッタンコではありませんが、リニア中央新幹線工事の談合も、「囚人のジレンマ」に似た現象を含んでいます。こちらは、課徴金減免(リーニエンシー)制度という司法取引のような要素があるので、とくに「自白」に傾きやすくなります。過去の事例で、第1申告者は課徴金だけでなく刑事告発も免れています。図にするとこうかな?

鹿島・大成建設
黙秘 自白
大林組・清水建設 黙秘 A

両者とも、談合が実証できなければ、不起訴、
実証されたら逮捕&課徴金

B

(逮捕&課徴金, 減免)
第一申告者は100%減免

自白 C

(減免 ,逮捕&課徴金)
第一申告者は100%減免

D

(逮捕&課徴金,逮捕&課徴金)
自白が6社目以降だと

今回はCの象限が発生したんですね。もう、ほんと、誰よりも先に「自白」しなきゃ損だという制度です。

もちろん、第1申告者であっても、談合を認めることは、企業イメージの面でマイナス要素がありますが、それは黙秘しても自白しても同じです。疑惑が生まれた時点で、マイナスイメージは付いてきます。だったら、逮捕者を出さず、課徴金も免除となる「自白」を選ぶのはあり得る選択肢です。

なぜ、談合は無くならない?

ちなみに、今回は、鹿島・大成建設とも幹部がともに逮捕されました。また、国土交通相発注の公共工事で指名停止措置を検討する方針を明らかにされています。その前日の東京都では、大成建設と鹿島の2社を都が発注する公共事業の入札に参加できなくなる指名停止処分にしました。処分は2日付で指名停止期間は未定。また、鹿島が共同企業体(JV)として仮契約を結んでいた都内などの水害対策工事2件(受注額計約380億円)が解除されました。

さっ、さんびゃくはちじゅうおくっっっっ…

逮捕者が出ても、課徴金が発生しても談合が無くならないのは、それだけリスクを犯しても取りに行きたい規模なんでしょうね。ましてや、リニア中央新幹線工事は、総工費9兆円の国家プロジェクトです。そりゃ、取りたいでしょ。

大手ゼネコンは過去に談合事件での摘発が相次ぎ、決別宣言を出していました。それなのにこうした工事でまたも談合の疑いを持たれ、逮捕者を出す事態に至ったわけです。まだまだ、悪習慣が絶たれていないのかもしれません。CSRの観点から今まで以上に、大きく責任を問うべきでしょう。二度と過ちを犯さないように。

ということで、時事ネタから「囚人のジレンマ」と「ナッシュ均衡」に触れてみました。この領域だと「パレート最適」にも触れないといけませんね。いくつかの事例を上げましたが、それぞれ象限Aに当たるのが「パレート最適」です。ある効用(満足度)をあげると一方の効用が落ちてしまう状態を言います。取って付けたような説明ですみません。図を見ながらそうなっていることを確認して下さい。

あっ、それと、さっきの380億の工事が談合によって得たものか分かりませんので誤解のないよう。

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