前回、マーケティングコンセプトの歴史に触れましたが、ワン・トゥ・ワン・マーケティングに触れなかったので記述したいと思います。
ワン・トゥ・ワン・マーケティングとは
最近の企業が目指すマーケティングの方向性の1つに「ワン・トゥ・ワン・マーケティング」が挙げられます。企業が顧客と双方向のコミュニケーションをとり、個々の消費者のニーズを理解するということをいいます。
ワン・トゥ・ワン・マーケティングのポイントは、企業は、個々の顧客ニーズにあった商品・サービスを提供することで、当該顧客と継続性のある取引を実現し、その顧客との生涯に渡る取引から得られる顧客生涯価値の最大化をめざすという点にあります。ワン・トゥ・ワン・マーケティングにおいては、その顧客の人生における消費のどれだけの部分を自社が占めることができるかという顧客シェアの拡大が最重要課題となっているのです。ワン・トゥ・ワン・マーケティングは、一人ひとりの顧客と強固な関係を作り上げ、長期にわたって多くの種類の商品・サービスを購入してもらうことをめざした手法であり、ワン・トゥ・ワン・マーケティングを実行する企業は他の企業に対してさまざまな優位性をもち、競合企業のマーケティング活動から顧客を守ることができるのです。
顧客維持率の向上
その効果の1つとして「顧客維持率の向上」が挙げられます。ワン・トゥ・ワン・マーケティングは商品・サービスを差別化するのではなく、顧客との関係のありかたを差別化するマーケティングです。そのため、企業と顧客との関係は強固なものとなり、競合企業が現れても顧客を奪われる可能性が低くなります。なぜなら、自分のことを理解してくれる企業から他の企業に取引を移すときには、顧客にとって大きな不安が生じるからです。多くの女性が美容院を利用する場合に、一定の技術をもったなじみの担当者ができると簡単には店を変えないことからも理解できます。ワン・トゥ・ワン・マーケティングを実践できる企業は、自社にとって重要な顧客と緊密な関係を結ぶことで顧客維持率の向上を実現しているのです。
追加販売による収益拡大
さらにその緊密な関係は、「追加販売による収益拡大」に繋がります。緊密なコミュニケーションによって、顧客のニーズをつねに把握しておけば、関連商品を販売したり、買い換え需要にも応えることが可能になるのです。また、点検・修理といったアフターサービスまで、追加販売の一部であると考えれば、取引拡大のチャンスは大きく広がっていきます。顧客のニーズや環境の変化を読みとり、追加販売を行うことによって1人の顧客から長期にわたって大きな収益を拡大することも可能になるのです。
新規客の紹介引き出し
もう1つの効果として、「新規客の紹介引き出し」が挙げられます。ワン・トゥ・ワン・マーケティングによって、顧客の満足度が高まると、新たな顧客を紹介してくれる可能性が高くなります。しかも、企業にとって「顧客生涯価値」の高い顧客が紹介してくれる顧客は、一般の新規客と比べ「顧客生涯価値」の高い場合が多くなっているのです。
ワン・ツー・トゥ・マーケティングによる満足度の向上は、継続的なリピートを生むだけでなく、顧客の紹介という形でさらなる価値を企業にもたらすのです。実際、ワン・トゥ・ワン・マーケティングを行う企業のなかには新規顧客紹介を導くために、既存顧客に対するインセンティブ制度を導入している企業も少なくありません。「顧客生涯価値」の高い既存顧客を理解するコミュニケーションが重要視されてきているのです。
ブランディング
顧客との関係性の強化という点では、ブランディングに通じる部分も多いと考えます。コンセプトを明確にして、ブランドイメージで顧客との関係性を強固なものにするメリットは、ワン・ツー・トゥ・マーケティングと共通するポイントだと言えます。
ブランディングもワン・ツー・トゥ・マーケティングも、その理論は理解できても、実践するのはなかなか難しいものです。顧客との関係性強化は、その商品でなければならない、あるいは、その企業でなければならない理由を構築することで、つまり、希少性や模倣困難性を高めることも必要だからです。希少性や模倣困難性の確立には、それなりの時間とエネルギーを要することも念頭におくべきでしょう。